2013年3月 8日

[53]産経国際書会専管理事・近藤豊泉さん

碧山過...
信念と苦労で自分の書を
近藤豊泉さん
 日展五科に最年少で入選した。23歳だった。翌年結婚し2児を授かるが、40歳で岐路が訪れる。書に理解を示さない、それ以上に自分を信じてくれない夫が許せなかった。ついに一人で家を出た。師、椎葉海嶽(しいば・かいがく)の教えもあった。

「厳しさのなかでこそ作品が厳しくなる」

 書具一式と寝袋だけを持ち出し、東京・杉並の美容院跡を稽古場と住まいにして書を続けた。師の言葉は厳しかった。印南渓龍(いんなみ・けいりゅう)は初めて見せた日展出品作品に「ダメ」の一言。椎葉は「いつまでかけておくんだ。こちらの作意が鈍る」。師に質問などできない時代、理由が分からぬまま自分で答えを探し求めた。

 その椎葉も出会いから2年半で他界。師を失うなか印南が「君は一人でやっていける」と背中を押してくれた。140号で椎葉から引き継いだ会報も500号まで続けた。やってこられたのは信念だった。約60年の書人生。「人間、苦労しなければだめ」。印南からよく言われた「品格のある書を書け」。いまようやく、自分の心、自分の気持ちを入れた書を書けるようになってきた。(柏崎幸三)