2010年10月22日

産経国際書会常務理事・石井長慶(ちょうけい)氏(76)

漢字の意味 引き立たせる刻書

 「ノミとハンマーで刻(こく)すことで、漢字の持つ意味を一層引き立たせる。それが刻書の使命であり、面白さです」

 日本刻書芸術会代表を務める刻書の第一人者。だが、ここに至る道程は平坦ではなかった。

 働きながら高校、大学で機械設計を学び、30代で一念発起して、大手重工メーカーの下請け工場を起業。埼玉県深谷市に1500坪の工場を構え、一時は30人を超す従業員を抱える実業家だった。

 書の道へと転身したのは、不況で会社が傾いたためだ。余技として、同じ書家となった松苑(しょうえん)夫人や娘たちと一緒に、書を習っていたのが役立った。

 家だけ残して工場を売り払い、著名書家の青山杉雨(さんう)と刻書の小林石寿(せきじゅ)に師事。絵を描くことが好きだった子供の頃からの才能を開花させ、海外でも名を知られる存在に。今は、「漢字は人類の財産。漢字を持たない国の人たちにも、芸術という形で伝えていきたい」と夢を膨らませる。

 今年は結婚50周年と、主宰する書会の創立30周年が重なる。節目を記念して23日から9日間、深谷市で開く「長慶・松苑と墨翔(ぼくしょう)会展」が楽しみだ。(原誠)