2015年7月27日
[79]顧問 書心会会長加藤深流さん(84)
自分の「線」にこだわる
第32回産経国際書展で内閣総理大臣賞に輝いた。受賞作の「淑真」は、「しとやかで誠実なこと」という意味。後漢末期の文学者で政治家の王粲(おうさん)の詩にある熟語だ。得意とする草書で一気に書き上げた。同じ文字を何度も書くと確かに綺麗にはなるが、気の入っている最初の一枚が良くて出品作とすることが多い。書作では、次々と別の字を書いていくプロセスをとってきたという。
今日でも書道の盛んな埼玉県の秩父の生まれ。旧制の秩父商業学校で習ったのは大澤史峰、同時期より師事したのは関口芳岳と、ともに日展作家だった。
30代では、産経展でも活躍する松田海軒の発行する競書誌を手伝っていたのが縁で、前衛系の現日展に出品した。初出品で特別賞である現日賞を受賞する快挙を成し遂げた。
芳岳没後の41歳で、以前から崇敬していた当時の書壇のトップの一人ともいえる赤羽雲庭に師事することが叶った。しかし雲庭も5年後に亡くなり、数年のブランクの後、現日展に出品を続けていた流れから「自由と奔放」を標榜する現日会を主宰する南不乗の門下に入った。
それぞれの師に共通したのは、手本を書かなかったことという。一見すると簡素な墨の線にある、文字の持つ真髄の表現。異口同音に示したのは、自分の「線」にこだわる姿勢だったようだ。
(松本篤幸)
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