2017年3月 2日

[98] 産経国際書会常務理事・天真書道会副会長・筆邑会理事長 上野鶴陽(うえの・かくよう)さん(86)

令狐楚 游春詞
上野鶴陽さん
 昨年は第33回産経国際書展で、中国大使館文化部賞を受賞。郷里の栃木県からは文化振興功労者の県知事表彰を受けた。それでも、「いつも何か足りない。どうすれば『真の書』ができるか、自問自答している」と朴訥(ぼくとつ)とした口調で語る。

 書との出会いは小学5年。担任教師だった、津金寉仙(かくせん)門下の関沢鶴沙さんが黒板に書く、行書風の美しい文字と、流れるような腕の動きに心惹かれた。19歳のとき、同じ小山市に住む関沢さんのもとに入門した。

 忘れられない師の言葉がある。20代の生意気盛りに、「どれぐらいでひとかどになれますか』と尋ねた。「先生は、『5年でなれる。でも、オレもその5年(書を)やるからね』とさらりとおっしゃった。これでは先生には永遠に追いつけない。それからは毎日書くことばかり考えました」

 小学教師の仕事をしながら、毎日1時間半、1年300日書き続けた。40代になってからは、かなを学びに、月に2度、平田華邑さんのもとに東京まで通った。

 様々な書に挑みながら、王羲之に戻ってきた。「時間がかかっても、書には最後は人間が投影されると思う。これからも書き続けていきたい」(福本雅保)